△飯匙蛇の腹で鼠の産ツイ一昨日の午后一時頃であった。
中城城趾を一人の飯匙蛇捕り爺が彼方の石垣を嗅いだり此方の土穴を覗いたりしてよき餌物あれかしと探してゐたが、到頭嗅ぎ充てるや否や毛むくじゃらの腕を差し込んで物の六尺余りもある大きな飯匙蛇をヅルヅルと引出した所が、この飯匙蛇先生たるや実に以外で尻尾を握られたまま身動き一つ仕様とせず眼許りギロギロして苦し相である。これは異しいと思ってゐたら成程腹部が著しく膨脹してゐるのは屹度鼠か何かを呑んでるに相違ないと思ふ。其れにしても普通の鼠より大きいのは若しやマングースででもありはしないか、マングースが飯匙蛇に呑まれるも変だと飯匙蛇取り先生に訊いて見たら先生も同じく不思議だと云ふ。到頭腹部切開と云ふことになって先生懐中より小刀を取り出しサッと下腹を一尺位も剖いて見たら果して一疋の大きな鼠が出た。しかもこれ丈では些っとも不思議でないが、続いて三疋の鼠の赤ん坊が顕れた。加之に母鼠はもう死んでしまっているのにこの真ッ赤な毛のない子鼠は孰れも無事でウヨウヨ生きて母の体内から今生れ出たばかりだ。これは面白い全るで嘘のやうな話だが実際で産気の付いた鼠が飯匙蛇にパクリとやられ鼠の体が飯匙蛇の腹内の圧迫作用でピンピンと胎児は出産したものらしい。兎に角珍しい話でないか。
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